ベルリンパレードでジュディス・バトラーが受賞拒否 [2010] (日本語字幕、訳付き)

英語版

Butler, Judith. “I must distance myself from this complicity with racism, including anti-Muslim racism.” ‘Civil Courage Prize’ Refusal Speech. Christopher Street Day. June 19, 2010.
Judith Butler – I must distance myself from this complicity with racism


When I consider what it means today, to accept such an award, then I believe, that I would actually lose my courage, if i would simply accept the price under the present political conditions. … For instance: Some of the organizers explicitly made racist statements or did not dissociate themselves from them. The host organizations refuse to understand antiracist politics as an essential part of their work. Having said this, I must distance myself from this complicity with racism, including anti-Muslim racism.

We all have noticed that gay, bisexual, lesbian, trans and queer people can be instrumentalized by those who want to wage wars, i.e. cultural wars against migrants by means of forced islamophobia and military wars against Iraq and Afghanistan. In these times and by these means, we are recruited for nationalism and militarism. Currently, many European governments claim that our gay, lesbian, queer rights must be protected and we are made to believe that the new hatred of immigrants is necessary to protect us. Therefore we must say no to such a deal. To be able to say no under these circumstances is what I call courage. But who says no? And who experiences this racism? Who are the queers who really fight against such politics?

If I were to accept an award for courage, I would have to pass this award on to those that really demonstrate courage. If I were able to, I would pass it on the following groups that are courageous, here and now:

1) GLADT: Gays and Lesbians from Turkey. This is a queer migrant self-organization. This group works very successfully within the fields of multiple discrimination, homophobia, transphobia, sexism, and racism.

2) LesMigraS: Lesbian Migrants and Black Lesbians, is an anti-violence and anti-discrimination division of Lesbenberatung Berlin. It has worked with success for ten years. They work in the fields of multiple discrimination, self-empowerment, and antiracist labor.

3) SUSPECT: A small group of queers that established an anti-violence movement. They assert that it is not possible to fight against homophobia without also fighting against racism.

4) ReachOut is a councelling center for victims of rightwing extremist, racist, anti-Semitic , homophobic, and transphobic violence in Berlin. It is critical of structural and governmental violence.

Yes, and these are all groups that work in the Transgeniale CSD, that shape it, that fight against homophobia, transphobia, sexism, racism, and militarism, and that – as opposed to the commercial CSD – did not change the date of their event because of the Soccer World Cup.

I would like to congratulate these groups for their courage, and I am sorry that, under these circumstances, I am unable to accept this award.

日本語訳

ジュディス・バトラー「反ムスリムを含む人種主義との共犯関係からは、距離を取らざるを得ません」(「シビル・カレッジ(市民の勇気)賞」受賞拒否のスピーチ)2010年6月19日、プライドパレード(クリストファー・ストリート・デー [CSD])にて

今日このような賞を受けることの意味を考えると、もし現在の政治的状況においてこの賞を受けることは、私にとって、むしろ「勇気」を失ってしまうことになると考えます。今日の政治的状況とは、例えばこのCSDの主催者の中に明確に人種主義的な発言をしたり、それらの発言から自分たちを切り離そうとしなかった人たちがいることです。主催団体(複数)は、彼らの活動の重要な一環として反人種主義政治を理解しようとはしていません。そういった意味で、私はこの、反ムスリムを含む人種主義との共犯関係から距離を取らざるをえないのです。

既に私たちは、暴力的なイスラム嫌悪を利用した移民への文化戦争やイラク・アフガニスタンに対しての軍事戦争などを引き起こそうとする人々によってゲイ・バイセクシュアル・レズビアン・トランス・クィアの人々が利用されてしまうことがあることを知っています。このような時代、そのような方法によって、私たちは国家主義や軍事主義に駆り出されてしまいます。現に今、多くのヨーロッパ諸国はゲイやレズビアン、クィアの権利は守られるべきだと主張しており、私たちは、あたかもそのために移民に対しての新しい形の憎悪が必要であるかのように信じこまされています。ですから、そのような取引に対して私たちは「ノー」と言わなければなりません。このような状況で「ノー」を言うことこそ、私は「勇気」と呼びたいと思います。しかし誰が「ノー」と言っているのでしょうか。そのような人種主義を経験しつつ、クィアであり、そしてそのような政治に本当に対抗している人は、どこにいるでしょうか。

もし「勇気」のために私がこの賞を受けるのであれば、それはそのまま、本当に「勇気」を示している人々に差し出さなければならなくなるでしょう。もし出来るのなら、私は以下の、正に今、この国で勇気を示している団体に捧げると思います。

1) GLADT: トルコ出身のゲイ・レズビアンの団体。これはクィアな移民による当事者団体です。複合差別、同性愛嫌悪、トランス嫌悪、性差別、人種主義の分野で非常に実のある活動をしている団体です。

2) LesMigraS: レズビアン移民と黒人レズビアンの団体。これは Lesbenberatung ベルリン支部内の反暴力・反差別の部門です。10年以上も実のある活動を行っており、複合差別、自分たちのエンパワーメント、そして反人種主義の分野で活動しています。

3) SUSPECT: 反暴力運動を立ち上げた、少数のクィアによる団体。彼らは人種差別に対抗することなく同性愛嫌悪に対抗することは出来ないと明確に言っています。

4) ReachOut: ベルリンにおける極右的、人種主義的、反ユダヤ人主義的、同性愛嫌悪的、そしてトランス嫌悪的な暴力の被害者のためのカウンセリングセンター。この団体は、構造的・政府的な暴力に対して批判的です。

これらの団体は、 Transgeniale CSD というパレードで活動している団体です。 Transgeniale CSD は同性愛嫌悪、トランス嫌悪、性差別、人種主義、そして軍事主義に対抗しており、他の商業的CSDがワールドカップサッカーに合わせてイベントのスケジュールを変更していた中、唯一スケジュールを変えなかったCSDでもあります。

私は、彼女ら彼らの「勇気」をこそ称えたいと思いますし、残念ながら私はこういった状況下で賞を受けることは出来ません。

追記

今回のスピーチと、それにまつわる言説について、 tummygirl さんがブログを書いています。

バトラーが反人種主義や反移民差別の政治的目的のために彼女の「セレブとしてのステータス」を利用したこと(あるいはドイツのアクティビストが彼女のそのようなステータスを利用したこと)自体は評価しつつ、ピュアは同時に、バトラーがスピーチにおいて言及した反人種主義の団体の活動こそに、わたくし達の注意を向けようとする。今回の受賞拒否を「バトラー」に還元した表象をくり返すことは、バトラー個人の(あるいはバトラーを説得した団体の)意図とは無関係に、またしても表象/代表するものとしての(権威ある/白人の/アカデミックの)構造的な特権的位置を再確認し、ここまで黙殺されてきた運動の言説を再び黙殺する結果に繋がりかねないからだ(実際、バトラーの受賞拒否はドイツの主要メディアでも報道されたものの、彼女のスピーチにおいてプライドの人種主義への批判があった事、より受賞にふさわしい団体として移民や非白人のクィアの団体が挙げられたことなどは、これらの報道から見事に消し去られたらしい。これについては、下に引用したSUSPECTによる声明文を参照して欲しい)。ピュアは、バトラーの受賞拒否の重要性を、受賞拒否それ自体ではなく、むしろ、それに先んじる/それに引き続く、さまざまな運動体相互のつながりに与えた影響と、上で述べたような引用と表象の構造に対する批判の高まりとに、見ようとするのである。
日本におけるLGBT運動やそれにかかわる議論に潜む「人種主義」や「民族主義」や「国家暴力」の承認の可能性と切り離して語られるべきでも、ない。日本での人種主義や民族主義や国家暴力は、たとえばアメリカ合衆国やドイツのそれとは、一見異なった形で現れるかもしれない(たとえば攻撃の最大のターゲットは「イスラム教徒」でも「トルコ人」でもない、という意味において)。けれどもそれは、日本において人種主義や民族主義や国家暴力がない、という事ではないし、一連の議論(ベルリンの反人種主義の団体によるものも、バトラーや、あるいはピュアによるものも含めて)において批判されているような、LGBTの人権擁護運動と国家主義や排外主義との共謀の危険性を、日本のLGBT/クィア系のアクティビズムや研究が、免れているわけでもない。
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